
みなさん、こんにちは。
獣医師・キャリアコンサルタントの岡野 顕子です。
いよいよ2023年度がスタートしましたね。
新入社員の教育と合わせて、今年度は新たな国家資格である愛玩動物看護師が現場で働く初めての年になりますね。現場では、資格取得スタッフと経験はあるけれどまだ資格取得できないスタッフが混在するなど混乱も起きているかもしれませんね。
そのような時期には、チェンジマネジメントを意識して変化に対応していくことが求められます。一人一人が変化していく時代であることの意識とともに組織としても変化に対応した人事戦略を立てる必要があります。
そこで今回は、獣医師・キャリアコンサルタントとして、また国際EAPコンサルタントとして、変化が求められる時代において、組織としてどのような対策を求められるかについてお話ししたいと思います。
チェンジマネジメントとは
チェンジマネジメントとは、変革を効率良く成功に導くためのマネジメント手法のことです。今回の愛玩動物看護師の国家資格化は、個人にとっても、組織にとっても大きな変化です。愛玩動物看護師の国家資格化は、日本における社会的背景によるものです。
- 愛玩動物看護師の国家資格制度の背景
- 犬、猫等の愛玩動物(ペット)は家族の一員という考え方が一般的になりつつあり、求めら れる獣医療の内容は高度化、多様化しています。専門的な知識や高い技術力を持った愛玩動物 看護師の参画によって、臨床現場におけるチーム獣医療体制が充実し、より質の高い獣医療の 提供が可能になります。また、飼い主や動物により近い存在である愛玩動物看護師は、高齢動物 のケア、動物の栄養管理等に関する専門的な助言・指導の担い手となります。 さらに、人と動物の関わり方として注目される動物介在教育や動物介在活動(高齢者施設で のセラピー活動等)のサポート、ペットショップ等で指導的役割を果たす動物取扱責任者となる等、 幅広い活躍が期待されます。(抜粋:農林水産省 HP新しい国家資格愛玩動物看護師ができました!(リーフレット))
変化が求められる中で、変化するべき意識を組織が持つことです。しかし、組織が変化しようとしても、組織には変化を好まない人も存在しますし、その人たちの反発が変化の妨げとなって、組織に軋轢をもたらすこともあります。
チェンジマネジメントはこのような、変化が苦手な人、現状維持を希望する人を含めた従業員全員が変化に適応できるよう促し、組織の変化を進めていく方法です。チェンジマネジメントの課題には、変化に抵抗感を持つ人のマネジメントの難しさが挙げられます。変わることへの恐れや反発、嫉妬や興奮などといった感情のもつれが変化を阻害する要因であると言われています。
では、そのような変化を阻害する要因に対して、よく原因を見極め、うまく対処することが、チェンジマネジメントを成功させるポイントです。
チェンジマネジメントを成功させるポイント
チェンジマネジメントを成功させるには、ハーバード大学ビジネススクールのジョン・コッター名誉教授が提唱する「8段階のプロセス」があります。
- 緊急性の明確化
- 強い推進チームの結成
- 変革ビジョンを決める
- 社内全員で共有
- 社員が動きやすいよう環境を整備
- 短期的目標の設定と達成
- さらなる変革の推進
- 新しいアプローチを定着
前述したように、“変化”に対して抵抗を示す従業員もいます。その理由はなんでしょうか?変わることへの恐れなどは、今まで自分が経験してきたことや技術が評価されなくなるというものかもしれませんし、新たな技術を取得することへの恐れかもしれません。また、新たな技術を取得しても評価されないという不安もあるかもしれません。期待感から先走りして、組織と連携が取れずに孤立してしまうのではという恐れかもしれません。
キャリアコンサルティングを行う中で、個々の組織によって、どの傾向が強いかはさまざまです。その傾向を掴むために、院内で今回の国家資格化に関するアンケートを実施するのもお勧めです。その際には、筆跡などがわからないようにGoogleFormなどを用いるなど、誰が記載したのかわからないように配慮してください。そうすることで、率直な意見や考えを聞くことができます。
組織がとるアプローチ
1.今回のチェンジマネジメントにおいて、“緊急性の明確化”とは、愛玩動物看護師の国家資格化による業務の変化です。

出典:農林水産省 愛玩動物看護師 愛玩動物看護師の業務範囲の考え方(イメージ)
愛玩動物看護師の業務は法第2条第2項に規定されており、診療の補助、愛玩動物の世話その他の愛玩動物の看護、愛玩動物を飼養する者その他の者に対する愛護及び適正な飼養に係る助言等を業務とすることとなります。なお、業務のうち、診療の補助は愛玩動物看護師の資格を有する者のみ(獣医師を除く)が行うことができる独占業務となっています。
診療の補助は法第2条第2項において、診療の一環として行われる衛生上の危害を生じるおそれが少ないと認められる行為であって、獣医師の指示の下に行われるものと規定されており、例えば輸液剤の注射、採血、マイクロチップの装着、カテーテル留置、投薬等が含まれます。
一方で、診断、エックス線撮影等における放射線の照射、ワクチン等、愛玩動物の身体への影響が大きい医薬品の投与等については、これを誤ると衛生上の危害が生じるおそれが少ないと認められる行為ではないことから、引き続き獣医師が実施する必要があるとされています。
2.国家資格化の背景や意味、国家資格化における責任、業務内容など必要な情報を共有するようにします。その上で今後組織としてどのように対応してくのか方向性を示します。
3.社員が動きやすいよう環境を整備するということは、愛玩動物看護師の認知度をあげるため院内やSNSなどで飼い主に対しても愛玩動物看護師の国家資格化や業務を告知する、技術の習得における教育体制を整備する、人事評価などの評価基準を明確化するなどが挙げられます。
4.このような改革を、組織の中長期的目標にしながら、短期的目標を設定してフォローしていくことが大切です。
個人に対してのサポート
ミィーティングなどでは、組織の方向性や広く理解を得られるように疑問や質問に答えるようにしましょう。また意見や思っていることを伝えられない従業員もいることを考えて、1on1など面談を実施し、個々にヒアリングすることも大切です。起こる変化に対して、従業員が抱えるモヤモヤや不安を取り除くことです。
まとめ
誰しも、初めて経験すること、未知のことに対して不安を覚えます。現在愛玩動物看護師の業務に関しては、まだまだ不明確なことが多く、経営者・管理者としてもどのように業務を分けたら良いのか明確になっていない部分もあると思います。
しかし組織として、どのように変化していくのかメッセージを伝え、どのように取り組んでいくのか方向性を示すことで、現場の不安や混乱を最小限にして、今回の動物業界全体に及ぶ変化に対応していくことが求められるのではないでしょうか。

岡野 顕子
Veterinary Career Lab SMILE 代表、獣医師、キャリアコンサルタント、国際EAPコンサルタント
日本大学獣医学科卒業後、20年近く小動物臨床に従事し、また10年以上管理職を経験。
現在は、獣医師そしてキャリアコンサルタントの視点から、働くスタッフと経営者の相談に乗りながら動物病院専門のトータルアドバイザーとして動物病院をサポート。
管理職や20年近くに及ぶ現場での一般臨床の経験や知識を基に、働くスタッフが笑顔であり続ける環境を目指し、奮闘中。