獣医師 入交眞巳先生のキャリアを深堀!(前編)|ベッツディグキャリ Vol.5|画像診断の専門を目指していた!? 知られざる苦悩と決断
獣医師 入交先生のキャリアを深堀!
画像診断の専門を目指していた!? 知られざる苦悩と決断
VETS TECHでは、数多くの著名な先生方とのセミナーを実施してきました。
そんな先生方がどのような勤務医時代を過ごし、どのような考えから今の選択をされたのか、意外と知られていないのではないでしょうか。 そこで今回、先生方のキャリアを勤務医時代から深掘り(ディグ)していく企画「ベッツディグキャリ~僕らの勤務医時代~」をお届けします。 勤務医の先生方のキャリア形成の参考になれば幸いです。
今回は特別版として、JBVP年次大会の公開収録の模様をお届けします!ベッツディグキャリ第5回目のゲストは、米国獣医行動学専門医の入交眞巳先生です。
前編では、入交先生のキャリアの原点である臨床時代から、専門性を求めてアメリカへ渡るまでの道のりについてディグキャリしていきます!
- 入交先生といえば、行動学の分野で非常にご高名ですが、卒業後、最初から行動学の道に進まれたのでしょうか? それとも、まずは一次臨床を経験されたのですか?
- まずは一次臨床で頑張ってみることにしました。
- 受験の時も、生物学科や教育学部など、行動を学べる場所を探していました。結果的に獣医学科にご縁があったという感じです。ですので卒業する時も、臨床も面白いし、でも企業や公務員もいいな、と本当に自分がどうしたいか分からない状態で、色々受けていました。
実は企業からも内定を得ていましたが、そこで提示された条件が入交先生のキャリアを大きく左右します。当時の企業にはまだ看過できない男女格差が残っており、「男性獣医師の給料が26万円に対して、私は19万円」と告げられたのです。
「同じ獣医師なのにどうしてこんなに違うんだろう」と寂しさを感じたこの経験が、「やっぱり臨床でがんばろう」と小動物臨床へ進む決意を固めさせました。

心無い言葉をかけられた臨床一年目
- 最初から小動物臨床一本というわけではなく、かなり悩まれた上での決断だったのですね。臨床現場で働かれていたのは、どのくらいの期間ですか?
- 病気をした時期もあったので、オンオフはありましたが、トータルで2年くらいだと思います。

- 新卒で臨床現場に入られると、環境も大きく変わって大変な時期かと思います。当時はどのように過ごされていましたか?
- 「平日休みなら勉強しよう!」と思って、英語学校に通っていました。
- 臨床現場は忙しくて友達とご飯に行く時間もなく、休みも平日だったので、少し寂しい気持ちはありましたね。
でも、実は学生時代からずっとアメリカに行きたいという気持ちがあったんです。当時、大学には石田卓夫先生のように、海外から帰ってこられた素晴らしい先生方がたくさんいらっしゃって、その先生方の授業がとにかく素敵でした。
「先生たちが学んできた場所ってどんなところなんだろう」と、海外で勉強することにものすごく興味を持っていました。その夢があったので、「平日休みなら勉強しよう!」と思って英語学校に通い、そこで新しい友達を作って遊んでいました(笑)
- 臨床の勉強も大変な中で、英語の勉強も両立されていたんですね。臨床現場で苦労したことはありますか?
- 面と向かって「お姉ちゃんじゃなくて、院長を呼んで」と直接言われてしまうこともあったんです。
- 当時はまだ女性の獣医師が少なく、若手の女性であるというだけで、なかなか一人の獣医師として見ていただけない場面に直面することがありました。
例えば、私がご家族の方に対応させていただくと、面と向かって「お姉ちゃんじゃなくて、院長を呼んで」と直接言われてしまうこともあったんです。一生懸命やっているのに、なかなか信頼してもらえない…。獣医師としての無力感や悔しさは、今でもはっきりと覚えています。
何か確固たる専門性があれば、この先ライフステージが変化したとしても、獣医師として輝き続けられる道があるのではないかと思い、留学から帰ってきた先生への憧れもあり留学を決意しました。

26通の手紙から始まった、アメリカへの挑戦
- 実際にアメリカに行くことを決意されて、どのようにして留学されたのでしょうか?
- まずは、アメリカの26の獣医大学すべてにタイプライターで手紙を出しました。
- 当時、まだEメールがなかったため、どうやってアメリカの大学と連絡を取るかというところから始まりました。アメリカに26の獣医大学があることは知っていたので、まず日米教育会会館へ行き、全ての大学をカタログを調べて連絡先を突き止めました。そこから、タイプライターで一通一通「ここで勉強がしたい」という内容の手紙を書き、送り続けるという地道な作業をこなしました。
しばらくすると返事が届き、「マッチングプログラム」という制度があることを知りました。しかし、案内に従って必要書類を集めて応募するものの、何度挑戦してもうまくいきませんでした。
そんな中、カリフォルニア大学デービス校と、パデュー大学から「外国人用のプログラムがあります」という返事をいただくことができたのです。
最初は第一希望だったデービス校へ行く予定でしたが、ビザが発行された後に先生ご自身が病気になってしまい、残念ながら断念せざるを得ませんでした。そのため、パデュー大学へ進むことにしたとのこと。それは当時、先に留学されていた小林哲也先生が、ちょうどその外国人向けプログラムに参加されており、先生が架けてくださった橋を私も渡りたい、という気持ちがあったからであると伺いました。
全く知らない場所へ一人で飛び込むよりも、少しでも繋がりのある方が安心できるという思いもあり、パデュー大学で外国人獣医師が免許を取得するためのプログラムに参加されたようです。
- そのようにして留学を決め、パデュー大学では行動学の勉強をされたのでしょうか?
- 当初は行動学ではなく、画像診断で専門性を身に着けようとしていました。
- それは、元々画像診断の研究室に所属していたこともありますが、私が放射線を志した理由は、『いい先生になりたい』という思いからです。それは私自身の経験が大きく影響しています。
実は、私自身が画像診断の誤診で不要な手術を繰り返し、今も闘病生活を続けています。この経験から『誤診は絶対にあってはならない』という強い信念が生まれました。
そのため、当時の私にとっては『いい医者になること=正確な画像診断ができるようになること』だったのです。

さいごに
前編では、入交先生のキャリアの原点である臨床時代から、専門性を求めてアメリカへ渡るまでの道のりを伺いました。
後編では、画像診断から行動学へと専門分野を転換する大きなターニングポイント、そして帰国後の活動と今後の展望についてディグキャリしていきます!次回の記事をお楽しみに!
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入交 眞巳 先生
米国獣医師行動学専門医
一次臨床の動物病院に数年間勤務した後、アメリカに留学。
アメリカ・インディアナ州立パデュー大学で博士号取得。
ジョージア州立大学獣医学部にて獣医行動学レジデント課程を修了。
帰国後、北里大学動物行動学研究室専任講師、日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科講師を経て、「どうぶつの総合病院」行動診療科 主任・東京農工大学 特任講師を務める。


