獣医師 入交眞巳先生のキャリアを深堀!(後編)|ベッツディグキャリ Vol.5|「これが本当にやりたかったことだ」 運命の出会いと今後の展望
獣医師 入交先生のキャリアを深堀!
「これが本当にやりたかったことだ」
運命の出会いと今後の展望
VETS TECHでは、数多くの著名な先生方とのセミナーを実施してきました。
そんな先生方がどのような勤務医時代を過ごし、どのような考えから今の選択をされたのか、意外と知られていないのではないでしょうか。 そこで今回、先生方のキャリアを勤務医時代から深掘り(ディグ)していく企画「ベッツディグキャリ~僕らの勤務医時代~」をお届けします。 勤務医の先生方のキャリア形成の参考になれば幸いです。
ベッツディグキャリ第5回、JBVP年次大会の公開収録でお届けする米国獣医行動学専門医・入交眞巳先生のインタビュー、後編をお届けします。前編では、臨床現場での葛藤から専門性を求め、画像診断医を目指してアメリカへ渡るまでの道のりを伺いました。
後編では、その画像診断から現在の専門である行動学へとキャリアを転換する大きなターニングポイント、そして帰国後のご活動や、今後の展望についてディグキャリしていきます!
「犬を殴れ」と教える学問なら大嫌いだ。
―どん底の留学生活で出会った、“本当にやりたかったこと”
- アメリカにはトータルでどれくらい滞在されたのですか?
- 10年間です。
- 10年! 日本語を勉強されていたとはいえ、言葉や文化の壁など、ご苦労も多かったのではないでしょうか?
- もう、全てが苦労でした(笑)
- 留学して初めて「あ、英語だったんだ」と気づくくらい飛び込んでいったので…電子辞書を片手に必死でしたね。画像診断をやるにはまず解剖学だと思い、解剖用語をひたすら勉強していました。

- 当初は画像診断(解剖学)の道を進まれていたんですね。そこから行動学へ転向された、何かきっかけがあったのでしょうか?
- 解剖学の大学院で1年半ほど学んでいたのですが、研究がうまくいかず、このままでいいのかと悩んで帰国も考えていました。
- そんな時、ヨーロッパから来ていた行動学の先生のセミナーを見学させてもらったんです。もともと行動学には興味がありましたが、当時の日本では「犬と人の関係は主従関係。言うことを聞かないなら殴れ」と教わっていました。
「私にはできないし、やりたくない」と思っていました。
それが行動学なので、あれば行動学は大嫌いだと思っていました。
でも、アメリカで出会ったその先生は、「犬と人を上下関係で見る必要はない。行動はこうやって分析するんだ」と、とても楽しく教えてくれたんです。それを聞いて、「これが本当に私がやりたかったことだ!」と、目から鱗が落ちました。
後で笑い話にされましたけど、その先生が載った新聞記事を握りしめ、すごい形相で「弟子にしてください!」とお願いしに行きました(笑)
- まさに運命的な出会いですね!
- 本当に大きなターニングポイントでした。
- そこから行動学の博士課程に入り直し、レジデントも経験しました。
画像診断をやりたかったのも、根底には「いい獣医師になりたい」という思いがあったからです。でも、行動学には「これは自分が日本に持ち帰らなければ」という、さらに強い使命感を感じました。

「行動学とは何ぞや?」から始まった学校教育
でも、いまは少しずつ行動学ってそんな「獣医はそんなん知らなくていいよ」っていう世界ではなくなってきたので、だんだん広がってきていることを感じています。

行動学のこれから
ーFear-Freeな動物病院の普及を目指して
ここから先、先生が新たに取り組みたいと考えていることはありますか?
また、別の目標として、動物福祉についてです。これは畜産動物も含めて、動物がいかに適切に扱われ、暮らせているかという問題です。
私自身、この世界の重要性に気づいたのは、畜産学科にいた時でした。畜産学の方々はこんなにも動物福祉に真剣に取り組んでいるのに、私たち獣医師はそのことをほとんど知らない。その事実に強いショックを受けましたし、『自分も大学で少ししか習わなかったな』と痛感しました。
だからこそ、この考えは獣医師にもっと広まっていくべきだと感じています。
同時に、『動物福祉』と、一般的に言われる『動物愛護』は違うのだということも、しっかりと伝えていきたいですね。
さいごに
- 最後に、キャリアに悩んでいる皆様へメッセージをお願いします。
- 皆さんにはぜひ、常に触覚を伸ばしていてほしいです。そして「おっ」と思ったら、遠慮なく飛び込んでいただきたい。
- 私のやり方は無鉄砲だったかもしれませんが、飛び込み方にも色々あります。どんな形であれ、諦めないでほしいですね。自分にストップをかけずに。
入交眞巳先生のキャリアを伺っていて感じたことは、「最初から完璧なキャリア像は必要ない」ということです。
目の前の壁に悩みながらも、「専門性をつけたい」「海外で学びたい」という心の声に正直に行動し続けた結果が、行動学の先生との出会い、そして今の入交先生のキャリアにつながっています。インタビューの最後にいただいた「自分にストップをかけずに飛び込む」というメッセージは、大切にしていきたい言葉ですね。

この記事を読んでくださった皆様が、ご自身のキャリアで「おっ」と感じる瞬間に出会った時、一歩踏み出す勇気を持つためのきっかけとなれば幸いです。入交先生、誠にありがとうございました。

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入交 眞巳 先生
米国獣医師行動学専門医
一次臨床の動物病院に数年間勤務した後、アメリカに留学。
アメリカ・インディアナ州立パデュー大学で博士号取得。
ジョージア州立大学獣医学部にて獣医行動学レジデント課程を修了。
帰国後、北里大学動物行動学研究室専任講師、日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科講師を経て、「どうぶつの総合病院」行動診療科 主任・東京農工大学 特任講師を務める。
