獣医師 塗木貴臣先生のキャリアを深堀!(後編)|ベッツディグキャリ Vol.7|不安や葛藤を抱えながら、突き進んできた
「迷いはあって当たり前」
不安や葛藤を抱えながら、突き進んできた
著名な先生方の“知られざる勤務医時代”を深掘りする企画「ベッツディグキャリ~僕らの勤務医時代~」。第7回ゲストとして、TRVA動物医療センター院長の塗木貴臣先生をお迎えしてお届けします。
前編では、大動物獣医の家系に生まれながら、国家試験浪人の1年を転機に小動物臨床へと進路を大きく転換した原点から、一次診療の現場で4年間かけて積み上げてきたプレーヤーとしての基礎、そして、なぜ未経験の救急という道を選ぶ決断に至ったのか、その背景に迫りました。
後編では、実際に救急の現場に身を置いたからこそ見えてきた現実や、副院長・院長として立場が変わる中で直面した葛藤やプレッシャーに焦点を当てていきます。そして「必要とされる場所で働き続ける」とはどういうことなのか─救急の道を歩み始めた先にあるキャリア観と仕事の流儀を、塗木先生の言葉でディグ(深掘り)していきます。
救急医として、組織の中で生き続けるという選択
- 実際に救急に向いている人・向いていない人はいますか?
- 自分を否定できるかどうかだと思います
- 助言を素直に飲み込める力がない人は厳しいかなと。 例えば、自分の診断に対して他の先生から誤りを指摘された時、相手が正しくてもそれをはねのけてしまう人は、やはり救急には向きません。良い意味で自分を否定して、柔軟に意見を取り入れられるかが大事だと思います。
- 開業ではなく組織に残ると決めた理由はなんでしょうか?
- 「ここでやる意味」を感じたからです
- TRVAに入って、まず強いチームであると感じました。そこで2年間、プレーヤーとしてがむしゃらに働いたあとに、「開業か、副院長か」という選択のタイミングが来たんです。そのとき、自分が開業しなくても、そのエリアにはこれから動物病院は増えていくだろうなと思いました。
一方、日本の動物救急はまだ発展途上で知識や技術、考え方も含めて、これから広げていける余地がある。その中で「自分がここにいる意味があるんじゃないか」と感じました。また、必要とされる場所にいたいという、自分の性格も大きかったと思います。
- 副院長時代は、葛藤も多かったのでは?
- 中途半端な立場だからこその悩みがありました
- 副院長って院長でも勤務医でもない、ちょっと中途半端な立場なんですよね。現場にも出るし、組織のことも考えなきゃいけないしで、どうしても板挟みになることが多くて...。正直、迷いはかなりありましたし、一度だけ「この組織にとって、自分って本当に必要なのかな」って、本気で悩んだ時期もありました。やっていることに意味があるのか、ここに居続ける理由があるのか、わからなくなった瞬間があったんです。

- その迷いは、どう乗り越えたのでしょうか?
- 目の前の症例に打ち込み続けました
- 目の前の症例に打ち込むことで、迷いをかき消していました。「スーパーな救急医になってやる」というマインドで、目の前の動物と飼い主さんを救うことだけにこだわるようにしていきました。そうすることで、当時の不安や焦りを乗り越えていたのだと思います。
周囲の期待というプレッシャーの中で見出した、自分なりの院長像
- 前院長の中村先生が辞めると聞いたとき、どのような葛藤がありましたか?
- 「一緒に辞めるか、院長を引き受けるか」で、半年ほど悩みました。
- 中村先生がTRVAを辞めると聞いたときは、一緒に辞めて一つの時代を終わらせるか、もしくは院長を引き受けるかで、半年ほど悩みました。自分も一緒に辞めたほうが新しい芽が出るんじゃないかと思う一方で、スタッフの顔を見ると「やっぱり残ってあげたいな」と思う日もあって、その間をずっと行ったり来たりしていました。
最終的には、状況を俯瞰して見たときに「これは自分がやるしかない」という感覚が生まれました。また、こうした機会は来るべき人に巡ってくるものだとも思えたため、そのチャンスを掴みに行こうと腹を括りました。
- 院長になって、一番変わったことは何ですか?
- プレーヤーとマネジメントの比重です
- 副院長時代は、感覚的にはプレーヤー8:マネジメント2くらいでしたが、院長になってからは、その比重を半々くらいに変えないと、組織の環境づくりは中途半端になってしまうと痛感しました。
最初の1年は前院長のようにならなきゃいけないという気持ちもありつつ、周囲からの注目度も高かったので、正直かなりきつかったですね。でも途中で、期待に応える必要はないと割り切りました。今は、これまでの良さを残しつつ新しいものも取り入れるスタンスで、自分なりの組織作りをしています。

- 今後の救急医療業界に対して、どのような展望やビジョンをお持ちですか?
- 一般診療では対応しにくい重症例の飼い主さんが、救急医療を選べる時代になるといいですね。
- 理想としては各都道府県に一つは、夜間も含めた救急施設がある状態にしたいですね。現状は全国でもまだ十数軒程度なので、施設も人材もこれから増やしていく必要があります。また、人の医療のように、1次・2次・3次救急といったレベル分けが進めば、「ここまでは対応できる」「それ以上は別の施設へ」と役割分担が明確になり、より多くの動物を救えるようになると思っています。診療において選択肢があることはとても大事なので、飼い主さんが状況に応じて救急病院を選べる時代が来たらいいですね。
- キャリアに悩む方へ、メッセージをお願いします
- 迷うのは、みんな同じです
- 迷っていないように見える人も、実はみんな何かしら迷っていると思うんですよね。ただ決断のスピードが早いだけで、悩みがないわけじゃない。決断には必ずリスクがあるし、怖いと感じるのは当たり前だと思います。だから、そんなに一人で抱え込まなくてもいい。友達と飲みに行って、何気なく今の気持ちを話すだけでも、頭が整理されたり、本当はこっちに行きたいんだなって気づけることもあります。一度選んだからといって、それが一生変えられないわけじゃないし、軌道修正はいくらでもできます。だからこそ、「今の環境が、自分のなりたい獣医師になるための環境かどうか」という視点で選んでほしいと思います。

さいごに
いかがでしたでしょうか。
救急の過酷な現場や周囲からの期待という重圧の中で、塗木先生の歩みは常に迷いと共にありました。それでも、自分が必要とされる場所を選び、目の前の症例に全力で向き合い続けることで、自分らしい獣医師像を築き上げました。
もし今、進む道に悩んでいるなら、「どんな獣医師・愛玩動物看護師になりたいか」という視点で、環境を選んでみてはいかがでしょうか。その先に、きっとあなたなりの答えが見えてくるはずです。
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塗木 貴臣 先生
TRVA動物医療センター 院長
2009年3月/日本獣医生命科学大学 卒業
2009年4月/埼玉県および東京都内の一次臨床施設で勤務
2013年/TRVA夜間救急動物医療センター(現:TRVA動物医療センター)入社
2015年/TRVA夜間救急動物医療センター 副院長 就任
2022年/TRVA動物医療センター 院長 就任
