獣医師の働き方とWell-being ~幸せの定義~
みなさん、こんにちは。獣医師・キャリアコンサルタントの岡野 顕子です。
前回は、獣医師の働き方と収入に関してお話しさせていただきましたが、今回は、獣医師の働き方とWell-beingウェルビーイングについてお話しさせていただきたいと思います。
人は誰しも“幸せになりたい”と願うのではないでしょうか?
では、その誰もが願う“幸せ”の定義とは、何なのでしょうか?
Well-beingとは、言葉本来の意味は“良い状態(であること)”、“幸福(な状態)”という意味です。“Happiness”という言葉が“幸せ”と訳されますが、これはあくまで感情的で一瞬しか続かない幸せとされ、一方、well-beingは持続する幸せと捉えられています。
このWell-beingという言葉は、元々は社会福祉・医療・心理などの分野で使われていた用語ですが、昨今ではそれ以外でも使われるようになっています。その背景には、多様性を認める社会、企業における人材不足、SDGsの視点、働き方改革が要因として挙げられます。
では、well-beingとは一体何なのでしょうか?
Well-beingとは?
well-beingとは、直訳すると「幸福」「健康」という意味がありますが、この考え方は、世界保健機構憲章における条文においての「健康」の定義から発展させたものといえます。
- Well-beingの定義
- “Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会仮訳)“
この解釈に基づくとwell-beingとは、幸福で肉体的、精神的、社会的全てにおいて満たされた状態のことを指します。
Well-beingを構成する要素
well-beingは、構成する要素は5つとされており、世界人口の98%をカバーする人間の行動学と幸福度調査を実施しているGallup社の調査が有名ですね。
Career | キャリアに対する幸福 | 仕事してのキャリアだけでなく、人生もキャリアの一部として捉え、日々をどのように過ごし、目標に向けて動機づけられているか |
Social | 人間関係に関する幸福 | 交流している量ではなく、信頼でき、愛情のある人間関係であるか、お互いにサポートしあえる人間関係や愛があるか |
Financial | 経済的幸福 | 報酬を得られているか、報酬に納得できているか、経済的に余裕を持つことでストレスを減らし安心感を高めているか |
Physical | 身体的な幸福 | 心身ともに健康で、不自由なく思い通りに行動することができているか、日々の仕事をやり遂げるためのエネルギーは十分か |
Community | コミュニティに関する幸福 | 主なコミュニテイとして、居住地や家族、親戚、友達、学校、職場などの安全性や郷土愛はあるか |
特にGallup社では、このwell-beingを構成する要素の中でも、Careerにおける幸福度が充実することがwell-beingにおいて重要とされています。
well-beingは、上記5つの要素によって成り立ち、各個人の働き方が変わりつつある中で、それぞれのウェルビーイングについて考えていかなければならないとされ始めているのです。
働き方とwell-being
現在、フルタイムワーカーの76%が燃え尽き症候群にかかったことがあるというデータがあります(Gallup社従業員意識調査)。
動物病院での働き方をみると、“私も燃え尽き症候群になったことある”“現在そうだ”と思われる方も多いのではないかと思いますが、日本だけでなく世界でも同じような状況が起こっているのが、数字からわかりますね。
そのような状況下において、ビジネスの分野、特に企業経営や組織、従業員の働く環境を考えるとき、well-beingは、従業員の健康やワークライフバランスを整えるために重要な要素である、という認識が広まりつつあるのです。日本では、2019年からの働き方改革の取り組みとともに、「従業員一人ひとりの幸福(=心身ともに健康的な状態であること)が、組織にとっても良い方向に働く」ということを、組織が理解し、well-beingへの取り組みが広がっています。
同じような取り組みが、働き方改革を通して、動物病院でも実施されており、知らず知らずのうちにwell-beingは身近なものになってるように思います。
一人一人のキャリアとwell-being
一方組織がwell-beingに取り組んでも、一人一人が主体的なキャリアに取り組まなければ、well-beingの実現は難しくなります。
現在のキャリアに関する考え方は、環境との相互作用によって、生涯を通じて個人が構築し、個人により意味づけされたものと定義されます。そのためには、自分の内面や仕事観など本人がどう考えるかも問う「内的キャリア」が重要視されます。現代では、組織内キャリアから個人の仕事における心理的成功を目指す自己志向的なキャリアに変化しており、キャリアを営む本人が成功と思えるキャリアを自ら柔軟に構築してくことが求められています。
ある意味個人の柔軟性が高く、その価値観を間違えれば独りよがりなキャリアになりかねないリスクも含んでいます。
独りよがりなキャリアにならない、自身のwell-being実現のためには、キャリアについての、自分自身の価値観を再確認することが求められそうですね。
心理学的成功に導く要素
まとめ
働き方改革が進む中、その流れは動物業界にも及んでいます。2019年4月からおこなわれるようになった「働き方改革」では、長時間労働の是正や、多様で柔軟な働き方ができるように改革していく必要性があることなどを唱えています。また、2020年以降問題となっている新型コロナウイルス感染症も1つのきっかけとなり、それに伴って精神面の不調やストレスを抱える事例も多発しています。コミュニケーション不足によるこれらの弊害は、従業員だけでなく家族にも影響を与えます。働き方に対しても、well-beingが深く関係してくることがわかるはずです。
well-beingとは、私たち一人一人にとって大切なこと、すなわち自分の人生をどう考え、どのような経験を積んでいくのかということに関係しているのです。
岡野 顕子
Veterinary Career Lab SMILE 代表、獣医師、キャリアコンサルタント
日本大学獣医学科卒業後、20年近く小動物臨床に従事し、また10年以上管理職を経験。
現在は、獣医師そしてキャリアコンサルタントの視点から、働くスタッフと経営者の相談に乗りながら動物病院専門のトータルアドバイザーとして動物病院をサポート。
管理職や20年近くに及ぶ現場での一般臨床の経験や知識を基に、働くスタッフが笑顔であり続ける環境を目指し、奮闘中。