
みなさん、こんにちは。
獣医師・キャリアコンサルタントの岡野 顕子です。
新年度が始まり、多くの動物病院では春の予防シーズンと合わせて毎日忙しくされているのではないでしょうか?
動物病院では、1年で一番忙しい時期と新入社員が入社する時期が重なり、しっかりと教育したいのになかなかな時間が取れないなどと、悩みの種はつきません。
しかし、忙しいといって、新人教育がこの時期にできないと、新入社員にとっても成長の機会を得られないのではないかという不安な気持ちにもなりかねません。
特に動物病院では、早い段階から現場で活躍することを期待されます。そして、命を扱うことにおける責任の付加など、とてもストレスがかかりやすい状況に新入社員がいることを理解しておくことが大切です。
そこで今回は特にストレスがかかりやすい新人時代、新人教育のポイントを、オンボーディングと心理的安全性に焦点を当ててお話ししたいと思います。
新入社員が組織に馴染むまで ~オンボーディングとは~
新しく組織に加わったメンバーが、組織の目標を達成するために求められる役割、知識、規範、価値観などを獲得し、組織に適応していくプロセスのことを「組織社会化」といいます。組織研究において、個人が組織に参入するときは、必ずこの組織社会化の過程を通過しなければならないと考えられています。

そしてオンボーディングとは、新しく組織に加わったメンバーが、組織にスムーズに馴染み、早期に戦力として活躍できるように支援する一連の取り組みのことを指します。会社に入る前の段階を予期社会化期といい、その段階で入社前の期待と入社後の現実の乖離(リアリティショック)をなるべく、無くしておくことが大切です。いざ入社してみると、事前に言われていたことと違った、また新入社員自身も、”自分がもっと活躍できて、生き生きと働く姿”をイメージしていても、同じようにリアリティショックは起こります。このようなリアリティショックを起こさないためにはオンボーディングのプロセスが重要となります。
- オンボーディングのプロセスとは…?
- • 事前準備:採用計画、研修プログラム、資料の準備など
• 入社オリエンテーション:会社概要、組織体制、制度説明など
• OJT・オフJT研修:業務知識・スキルの習得
• メンタリング:上司や先輩社員による個別指導
• フォローアップ:定期的な面談、アンケート調査など
こちらの5つが挙げられます。
- オンボーディングのポイントは?
- ・目標設定:具体的な目標を設定し、進捗を定期的に確認すること
・個別化:個々のニーズや能力に合わせたプログラムを提供すること
・双方向のコミュニケーション:一方的な情報提供ではなく、双方向のコミュニケーションを図ること
・継続性:入社後も継続的に支援を行うこと
・制度・環境の整備:心理的安全性の高い職場環境を整備すること
上記の5つがございます。
オンボーディングを実施することで、新入社員の早期離職率の低下や組織への定着率の向上につながります。

特に、新入社員が職場に受け入れられたと思うまでには平均2.7ヶ月かかるといわれています。この時期にしっかりとした信頼関係を築けるかどうかが、新人教育でのポイントになってきます。
心理的安全性を高めた新人教育で、組織の成長を加速させる
先ほどのオンボーディング実施のポイントにもあった制度・環境の整備:心理的安全性の高い職場環境を整備するとはどういうことでしょうか?近年、心理的安全性の高い職場が、イノベーションや生産性の向上、社員のエンゲージメント強化に繋がる重要性が注目されています。特に、新入社員にとって、心理的安全性の高い環境で学ぶことは、組織への定着率向上や早期戦力化にも大きく貢献するといわれています。
では、心理的安全性とはどういうことでしょうか?心理的安全性とは、「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をとっても、周囲から裁かれることなく、安心して振る舞える状態」を指します。
心理的安全性の低い環境や職場だと、「忙しい時にこんなことを聞いたら、仕事の邪魔になるのではないか」「こんな質問をしたら、無知と思われて怒られるんじゃないか」という気持ちが先行し、聞きたいことも聞けないような状態をいいます。
- 心理的安全性の要素
- • 互いを尊重し、意見を言いやすい環境
• 失敗を恐れずに挑戦できる雰囲気
• 多様な価値観やアイデアを受け入れる寛容さ
• 建設的なフィードバックと相互学習の文化
上記の4つがございます。
では、心理的安全性を高めた新人教育のポイントとはどうすればいいのでしょうか?
具体的なポイントは以下にあげます。

忙しいこの時期に、そこまで時間が取れないと思われるかもしれませんが、一部だけでも心理的安全性のポイントを取り入れてみるのはいかがでしょうか?多くの動物病院では、OJT(On-the-job Training)として、職場内で実際に仕事を行いながら、必要な知識やスキルを身につける訓練方法がとられているのではないかと思います。OJTは上司や先輩社員などの指導を受けながら、実務を通して段階的にスキルを習得していくのが特徴です。
OJT メリットとデメリット
メリット | デメリット |
実践的なスキルを習得できる | 指導する側の負担が大きい |
即戦力として活躍できるようになるまでの期間が短い | 個々の能力や進度に合わせた指導が難しい場合がある |
モチベーションを維持しやすい | 体系的なカリキュラムがない場合がある |
チームワークやコミュニケーション能力を向上できる | 評価基準が明確でない場合がある |
企業文化を理解しやすい |
OJTを効果的に行うためには、目標を明確にすること、指導計画を作成すること、フィードバックを行うことで、デメリットをカバーしていきます。
OJTでの現場での指導方法であるので、先輩従業員には、後輩に声をかける、後輩が声をかけてきた時への対応方法などを事前に社内で共有しておくことで、職場内での心理的安全性の取り組みにつながります。
また、新入社員にも同様に、動物病院はこの時期忙しい時期であることを伝え、すぐに質問に答えられない場合があること、や新入社員がわからないことが先輩にはわからないから自ら質問をすること、質問することで怒られることはない、質問することで自分自身の成長につながることを伝えておくと、良いと思います。
心理的安全性の取り組みのポイントは、双方向のコミュニケーションから始まります。指導する方も指導される方も、お互い自分のわからないことや困りごとが伝わる方法を一緒に考えることが大切です。
まとめ
心理的安全性を高めた新人教育は、新入社員の成長を促進し、組織全体の活性化に繋がります。現在、動物業界だけでなく多くの企業で若手の早期離職が問題視されています。その理由は、大きく二つあり、キャリアの安全性の欠如と生存者バイアスの存在と言われています。
キャリア安全性の欠如とは、組織に居続けることで他の組織で通用しない人材になるということに恐怖を感じることです、そして、生存者バイアスとは、その組織において自分はこう育ってきたという方法だけしか存在せずに、組織のやり方のみが正しいとして、聞く耳がない状態を言います。新入社員が入社するこの時期だからこそ、院内の教育体制を見直し、しっかりと整えて新入社員が定着する職場づくりを目指しましょう。
2001年に日本大学農獣医学部獣医学科卒業後、小動物臨床に従事。岡野 顕子 先生
Veterinary Career Lab SMILE 代表 | 獣医師 | キャリアコンサルタント | 国際EAPコンサルタント
18年間の動物病院在籍中に、副院長、院長、事務局長として管理職を経験。
現在は、動物の眼科診療を行う臨床獣医師として現場に立ちながら、
キャリアコンサルタント、国際EAPコンサルタントとして
経営者と従業員の双方に働きかける動物病院専門のトータルアドバイザーとして活躍。