獣医師 上野弘道先生のキャリアを深堀!(後編)|ベッツディグキャリ Vol.3|給与60%カットの転機…そして経営者の道へ
VETS TECHでは数多くの著名な先生方とセミナーを行ってきました。
そんな先生方がどんな勤務医時代を送ってきたのか、どんな考えをしていまの選択をしたのかはなかなか知られていないと思います。
そんな先生方のキャリアを勤務医時代から深堀り(ディグ)していく企画、それが「ベッツディグキャリ~僕らの勤務医時代~」です。
勤務医の先生方の参考の一つになれば嬉しいです。
第三回は日本動物医療センターグループ グループ代表であり、東京都獣医師会の会長でいらっしゃる上野先生をお呼びしました。
進んだ道を正解にする上野先生の人生の選択と苦悩を赤裸々に語っていただきました。前半では、臨床面での上野先生のキャリアを深堀りしました。
後半は経営への挑戦や獣医療への想いもディグキャリしていきます!
経営者への突然の転機
- 上野先生が経営者になるきっかけはなんだったのでしょうか?
- 「君たちには給与を払いすぎている。」と言われ、給与が大幅に削減されたのが転機でした。
- 2008年の3月、僕と僕とともに頑張ってきた同期への給与を払いすぎていると、新しく取締役になった税理士に言われました。「先生の給与は高すぎるので、無理です。来月からこれでお願いします。」と言われて、提示された金額が元の給与の60%カットだったんです。頑張っていた彼も同じく60%カットにされました。
有り得ないじゃないですか。
彼には、きちんと説明もないまま、元の給与の4割で次月の給与が支給されておりました。
彼は「こんな子供のお小遣いを決めるみたいな場所では勤められない。」と言って辞めていきました。僕もその時は同様の気持ちになりました。一か月くらい熟考した結果、そのお金が払えないと言っている病院を立て直したらめっちゃかっこよくない?と思いました。

僕はこれまでひたすら現場で頑張っていたので、経営者側がどのようにお金を運用しているのか分かりませんでした。現場にいる僕が現場と経営者側を繋ぐことが出来れば現状を改善できるかもしれないと思いました。そこで、「僕を取締役にしてください。」と申し出て、経営層に入っていきました。
一緒に頑張っていた彼は、辞めて開業していきました。
そうやって人生が分かれていくのですが、これはどっちが正しいかではなく、自分で行ったことに自信を持って、「自らこの選択をしたんだ。自分の責任でこうしたんだ。」と言えることが大事だと思います。
失敗するかもしれないけれど、何があっても僕はこっちで突き進もうと思いました。
すごくエネルギーが溢れ出てきて、楽しかったんですよね。
誰かにやらされているとか、誰かの打席に立つんじゃなくて、何事も自分事にすることが大事だと思います。
自分がこの人生の主人公なわけですから。
自分の人生の中でどのような物語を作っていこうかと、自分が決めて挑戦したらいいのだと僕は思います。
- 臨床医としてやってきた中で、経営側になることに苦悩はなかったのですか?
- 挑戦することに苦悩はないんですよ。挑戦だから。もう前向きなんですよ。
- 自分がその現実を受け入れ、ポジティブに解釈するまでは、めちゃめちゃ苦しかったです。
でも苦しい時もやるしかないし、物語の一部と解釈してマインドセットを変えて動くと、僕の中で前に進むことが出来ました。
困難があった時に、その困難をクリアしたら、「なんか素敵だな。」「なんか自分がハッピーになるな。」みたいなイメージを持てるときがあって、そういった時は結構物事うまくいくんですよね。
逆にそういう気持ちになれず、グズグズやっている時ってどんどん気持ちが落ち込んでいくし、結局いい結果も生まれないことが多くあります。

自分の見えている部分だけを見ていると、苦しいところしか見えなくて、どこに行けばいいのか分からないんです。でも、それを第三者の視点から俯瞰して見ると、この苦しい状況も一時的であると自分を達観して見れるようになります。そして、行き先が見えてきて苦しみを乗り越えていくことができます。
僕は、自分に対する信頼がすごくあるんです。
「お前なら出来るはずだ。」と自分を鼓舞して苦しい時は進んで、本当にダメな時はじっと我慢することで困難に立ち向かっていますね。
「想いをもって常に安心を提供する」に秘められた原体験
日本動物医療センターは、「想いをもって常に安心を提供する」という理念を持っており、
- 動物にやさしさ
- ご家族に納得
- 仲間に心地よさ
- スタッフに健康
の4つを行動指針としております。ここに秘められた上野先生の想いをお伺いしました。
(参照:日本動物医療センターのご案内|理念)

- 「想いをもって常に安心を提供する」という理念に秘められた想いとは…?
- 過去から未来まで動物とご家族の生活に影響する仕事をしていると強く想っています。
日本動物医療センターに勤め始めて2~3年目の頃に、毎週皮膚病のシーズーを連れてくるおじいちゃんがいました。当時皮膚科の先生が来ていて、その先生の話をしっかり守っている素敵なおじいちゃんでした。医局でも今週もあの方来ているねと話題になるような感じの方でした。
そのシーズーが別の病気になり、皮膚科の先生は週に一回しか来ていなかったので、「じゃあ、上野君よろしくね。」と僕に任され、そのシーズーを診るようになりました。
一生懸命に頑張りましたが、結局亡くなってしまったんです。おじいちゃんは「ありがとうございました。」と言ってそのご遺体を引き取っていかれました。
ありがたいことに、そう言っていただけることはある仕事なので、その時は特別な感情は抱きませんでした。
その1週間後にまたそのおじいちゃんが菓子折りを持って病院にいらっしゃいました。
その時に言われたおじいちゃんのひとことに衝撃を受けました。
「あの犬は、亡くなった妻が大切にしていたので、大切だったんです。」
おじいちゃんの想いがそれほど強いことも知らず、淡々と獣医療をしていたんです。
おじいちゃんにどのような背景があり、そのわんちゃんと暮らしているのか僕は知らなかったんです。
その時に「僕は何のために獣医師をやっているんだろう。」と考えました。

そこから僕の考え方は大きく変わり、我々の獣医療というのはただ動物を治すわけでもないし、この瞬間の動物とご家族様の関係性を良くするものでもない。我々は、過去から未来まで含めてその人の生活に影響する仕事をしているんだなとすごく強く感じたんですよね。
この想いは、病院の理念である「想いをもって常に安心を提供する」に込められています。
僕の中でこの想いはすごく大きいからこそ、獣医師としてただ目の前の診療をやっていけばいいとは思えません。この病院に来ていただければその動物とご家族様の背景、ストーリーを大切にできる場所を作りたいと思い、いまの立場で組織を作っております。
業界の仲間が笑顔になるには…
- 獣医業界のこれからはどうなっていくのでしょうか?上野先生の展望を教えてください。
- まず、外部環境はすごく悪いですよね。要因は二つあると思います。
- 一つ目は、これからの見込みとして日本人の中間層が没落 による二極化が悪化し、多くの方が給料の低い状況になってしまう環境です。動物を飼う・動物と一緒に暮らすという、そういった気持ちになれるような日本の社会じゃなくなっていき、一部の方しかそういった楽しみを得られなくなっていくと予想しております。
二つ目は、動物愛護及び管理に関する法律の改正に伴い、ブリーダーさんが減っていってしまうことです。それによって供給能力が半減するとも言われています。購買力という点で一つ目と関連しますが、厳しい法律になっても、需要さえあれば企業は合理的な行動をしますので供給力は増えていくと思われます。しかし、二極化の流れの中、販売数でまかなえないため、売上を維持する手段は値上げになります。動物との暮らしによる豊かな生活を多くの国民が味わえない状況にますますなっていくと考えております。
この状況を改善していくために、ワンヘルスの観点から、「動物と暮らすことがこんなに人を幸せにします」とか「人の健康寿命を延ばし医療費が削減されます」「介護保険料が削減されます」といったデータを発信し、国民や行政の方々に知っていただくことが僕の課題だと思っております。
僕には、この業界の仲間に笑顔でいてほしいっていう気持ちがすごくあります。そのために、マーケット全体に対して活力が出るような仕掛けについて、自分の立場で何ができるのか。東京都獣医師会という枠を超えて、もしもペット業界としてできるようなことがあればもっと力になると思うし、そのためにできることは何かを実は今一生懸命いろんな人と意見交換しながら考えているところですね。
- 動物病院単位での上野先生の展望を教えてください。
- これまでの動物病院は病気になったら来る場所になっていました。そうじゃなくて、病気にさせないということをもっと積極的に支援できる場として生まれ変わらなければ、いけないのかなと、そういった面も持つ必要があるのではないかなと思っています。
- 動物病院が健康を維持できることを重要視できる場所になっていくといいなということが僕の今考えていることですね。

- ディグキャリを読んでいる皆様にひとことお願いします!
- みんな真面目なんだと思うんですよね。能力高いじゃないですか、すごく優秀な子たちなのでやっぱり与えられたことに対してきちっとやり遂げるという姿勢がすごく強いんだと思うんですよ。
- それはもちろんそうやってもらえることはありがたいことなんだけど、でも同時に人生を豊かにするという点で考えた時にもうちょっと気持ちを抜いた方がいいってとこあると思うんですよ。
20代でやりたかったこと、30代でやりたかったことって、年取ってからできないことがあるんですよ。
やっぱ若いって、本当に宝物なんですよ。
その宝の時間をどうやって使ってくのかって考えた時に、無理してやる必要も当然ある時はあるんだけど、でももうちょっと気持ちを楽にして1ヶ月でも2ヶ月でも旅に出るとかそういうのをもう計画しちゃうみたいなのもいいんじゃないかなと。ただ自分がここまでやるぞと思ったものに関してはなるべくやり遂げた方がいいと思います。
でも最終的に逃げてもいいと僕は思っているタイプなので、自分の体とか心を壊すまでやる必要はないです。でもその逃げてもいいと思った中でやると、エネルギーが湧くって僕は思っていたんですよ。
だっていつでも逃げられるもん!と思っているから。
そういう感覚なんですよ。逃げられないと思うから苦しいんですよ。客観的に今の状況の自分を見た時に、本当にあなたがこの中に居続けないといけないことはないと気づけた時に、いてやっているぐらいの気持ちになれて、すごく変わるような気がするんですよね。
自分の人生を生きているという感覚を自分が持つことがすごく大事だと思うんです。

上野先生、ありがとうございました!
上野先生の言葉を胸に、私自身も一つ一つの経験をいい経験にし、それが将来的に線で繋がって、いい人生だったと思えるように頑張っていきたいと思います!
上野先生が代表を勤める病院グループ
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上野 弘道 先生
日本動物医療センターグループ グループ代表 グループ最高経営責任者
公益社団法人東京都獣医師会 会長

外西 弘昌
VETS CAREER運営事務局
「ベッツディグキャリ~僕らの勤務医時代~」をより多くの獣医師・獣医学生に届け、キャリア形成の一助にしていただきたいです!

